糖尿病の検査
Diabetes test
糖尿病の検査について
糖尿病は私たちの日常生活において、よく耳にする病気です。多くの人が、この身近な病気を意識していないかもしれません。日本では、およそ6人に1人が糖尿病またはその予備軍であることが明らかになっています。
糖尿病は、自覚症状がほとんどないため、知らず識らずのうちに進行してしまうことが一般的です。自覚症状が現れた時には、病気が進行しており視力低下や腎臓病、神経障害、心疾患などを引き起こす可能性があります。
この「見えない病」を早期に発見し、適切な治療を行うためには、定期的な検査が欠かせません。しかし、具体的にどのような検査が行われ、どのような結果が糖尿病の診断につながるのでしょうか。
糖尿病の検査について、わかりやすく説明します。自覚症状が出る前に発見することで、合併症のリスクを減らし健康寿命を長くしましょう。
糖尿病が見つかるタイミング
糖尿病は、早期発見と適切な血糖管理によって、重大な合併症を避けることが可能です。糖尿病は、無症状で進行することが一般的です。普通に生活している場合、自分では気づかないかもしれません。
糖尿病が発覚するタイミングはさまざまです。たとえば、献血時に血糖値の異常が指摘されることがあります。また、高血糖による症状が現れたり、糖尿病の合併症が発見された際に、初めて糖尿病と診断されるかもしれません。妊娠中に高血糖が見つかることもあります。
手軽で効果的な発見方法は、定期的な健康診断です。自分では気づかない小さなサインを見逃さないように、定期的に検診を受けましょう。
糖尿病の検査は、何科を受診する?
糖尿病の初期検査を受けるだけなら、医療機関で受けられます。検査は内科で受けることが一般的ですが、より詳しく調べたい場合は「糖尿病科」「糖尿病内科」「内分泌代謝内科」などの専門的な科を受診しましょう。
先ずは身近な医療機関で検査して、糖尿病が疑われる場合に専門的な科を受診する流れでもよいかもしれません。すでに高血糖の症状が現れている場合は、内科または専門の科を受診してください。
糖尿病の検査
糖尿病を調べる際には、現在の健康状態や家族の中に糖尿病の方がいるかどうかを確認することから始めます。その後、尿検査と血液検査を行い、体内の糖分の量を測定します。
尿中に糖分が検出されるのは、血糖値が高い状態になった時です。そのため、糖尿病の確定診断には血液検査が欠かせません。一度の検査で異常値が見られた場合は、再検査を行うこともあります。
血糖値
血糖値は、血液中にどれだけのブドウ糖が含まれているかを示す数値です。健診結果による特定保健指導の基準値は、空腹時血糖100mg/dl以上となっています。
空腹時血糖
食事をすると血糖値は上昇します。そのため、正確な空腹時の血糖値を測定するためには、少なくとも10時間は食事や甘い飲み物を避けないといけません。水分は摂っても大丈夫です。
随時血糖
これは特定の時間を設けずに、その時点での血糖値を測定するものです。血糖値は一日の中でさまざまな要因によって変動するため、測定するタイミングによって数値に大きな差が出るかもしれません。
HbA1c
HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)とは、血液中にある赤血球に含まれるヘモグロビンが、過去1〜2ヶ月の間にどれだけの糖分と結びついたかを示す指標です。ヘモグロビンは酸素を体中に運ぶ重要な役割を果たしており、その寿命は約120日間になります。この期間中、ヘモグロビンは血液中の糖分と結合し、その結合した糖分の割合が多ければ多いほど、血糖値が高かったことを意味します。
HbA1cの数値の意味
たとえば、HbA1cが7%だとした場合、体内のヘモグロビンの7%が糖分と結びついている状態です。これは血糖値が高めであることを示唆しています。HbA1cの測定は、長期的な血糖コントロールの状態を把握するために有効な方法です。
健診結果による特定保健指導の基準値は、HbA1c 5.6%以上となっています。
HbA1cが正確に測れないことも
赤血球の寿命が変わると、ヘモグロビンA1cの値も影響を受けます。ここでは、その値が正確でなくなる場合の状況をわかりやすく説明します。
輸血を受けた後
輸血を受けると、自分の血ではない赤血球が体内に入るため、ヘモグロビンA1cの値が正確ではありません。
貧血の治療中
鉄欠乏性貧血やビタミンB12欠乏性貧血の治療をしている場合、新しい赤血球が多く作られます。これらの若い赤血球はまだ糖と結びついていないため、ヘモグロビンA1cの値は一時的に低くなります。
溶血性貧血や脾臓の機能亢進
赤血球が正常より早く壊れる病状の場合、ヘモグロビンA1cの値も低くなります。これは、赤血球が短命で、糖と結びつく時間が少ないためです。
慢性の鉄欠乏性貧血
逆に、赤血球が長生きする場合は、糖と結びつく期間が長くなるため、ヘモグロビンA1cの値が高くなることがあります。
75g経口ブドウ糖負荷試験
特定の量の糖を含んだ水を飲んでから血糖がどのように変わるかを見る検査になります。空腹時血糖が高かった場合などの2次検査として実施されることが一般的です。
この検査を受ける際には、まず10時間以上食事を摂らないようにします。最初に空腹時の血糖値を測定するために採血を行い、その後に75グラムのブドウ糖を含むソーダ―水を飲まないといけません。ソーダ水を飲んだ後、一定時間が経過したら再び血糖値を測定するための採血をします。
空腹時と時間ごとの血糖値を比較することで、身体がどのようにブドウ糖を処理しているかを評価し、糖尿病の有無を判断します。
尿検査
病名に糖の尿とあるので、糖尿病=尿検査とイメージするかもしれません。血中の糖分の量が一定のレベル(通常は160から180mg/dLの範囲)を超えると、身体は余分な糖を尿と一緒に排出し始めます。
ある程度血糖が高くないと、尿に糖分は出ないため糖尿病が軽症の場合には見落としてしまう可能性があります。また、他の要因でも尿糖は出現するため、血液検査と合わせて診断することが一般的です。
そのほかの検査
糖尿病の検査は、血糖値やHbA1cといった指標が一般的です。ただし、他の病気や特定の薬を服用している場合、これらの数値が役立たない場合もあります。
一般的ではありませんが、グリコアルブミン、CGM持続血糖測定、1.5-AGなどもあります。また、合併症を調べるための検査やインスリンの分泌を調べるためのC ペプチド検査なども行われることがあります。
グリコアルブミン
グリコアルブミンの検査は、血液中を流れるタンパク質の一種であるアルブミンが、どれだけ糖分と結びついているかを測るものです。HbA1cが正確に測れない場合に役に立ちます。
アルブミンは体内で作られてから約20日間活動し、その間に血液中の糖と反応して糖が付着します。グリコアルブミンの値は、過去2週間の平均血糖値を反映しており、HbA1cと似ていますが、より短期間の血糖コントロールを見るために使われます。
アルブミンの代謝が速くなると、値が低下することがあります。特に、バセドウ病やネフローゼ症候群、ステロイド製剤を使用している場合は、この傾向に注意が必要です。
1.5-AG
ヘモグロビンA1cは、過去1〜2ヶ月の血糖値の平均を示す指標ですが、これだけでは血糖値の日々の変動は分かりません。たとえば、血糖値が大きく上下しているにもかかわらず、平均値でみると異常がないこともあります。
血糖値が大きく変動すると、心筋梗塞や脳卒中などのリスクが高まると言われています。糖値が不安定な場合、より詳しい血糖の変動を把握するために「1.5アンヒドロ-D-グルシトール(1.5AG)」という指標を測定することが有効です。
1.5AGは血糖と似た物質で、通常は腎臓でほとんどが再吸収されますが、血糖が高くなると尿に排出されやすくなります。そのため、1.5AGの値が低いと、血糖が一時的でも高かったことを示します。現在、または数日間の血糖コントロール状態がわかる検査です。
1,5-AGの数値をチェックすることで、血糖が急に下がりすぎたり、予期せぬ低血糖を避けられます。これは、薬の効果が適切かどうかを知る手がかりにもなります。
CGM持続血糖測定
血糖値の変動を継続的に追跡するための検査です。皮膚の下に非常に細いセンサーを挿入し、そのセンサーが5分ごとに血糖値を測定します。これにより、24時間以上にわたって血糖値の変化を記録し、グラフを通じて血糖の推移を確認できます。
日常生活の中で食事や運動、睡眠などが血糖値にどのような影響を与えるかを理解するのに役立つ方法です。現段階では、導入にかかる費用が高額になることがデメリットになります。
糖尿病と診断する基準
慢性高血糖であることは診断の際に重要ですが、それだけではなく症状や臨床所見、家族歴、体重の変化なども総合的に考慮されます。
糖尿病の診断には、以下の3つの基準があります。
①糖尿病型の血糖値を2回確認する
以下のいずれかの血糖値が2回以上、別の日に測定された場合に該当します。
糖尿病型の基準値
ただし、HbA1cのみで2回の診断を行うことはできません。2回のうち1回は必ず血糖値で確認する必要があります。1回の採血でも血糖値とHbA1cが基準値を超える場合は、糖尿病と診断されます。
②糖尿病型の血糖値を1回確認し、慢性高血糖症状がある場合
糖尿病の典型的な症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)や、糖尿病網膜症が確認された場合は、1回の血糖値の測定でも糖尿病と診断されることがあります。
③過去に糖尿病と診断された証拠がある場合
過去に糖尿病と診断され、その記録がある場合は、現在の血糖値が基準値以下であっても糖尿病として扱われます。
診断の際の注意点
診断の際には、静脈での採血測定が基準です。家庭用の血糖測定器や簡易測定器での値は診断には使われません。糖尿病の診断は、一度の血糖値の測定だけでなく、複数回の測定や他の症状の確認を通じて行われることが重要になります。これは、一時的な高血糖と糖尿病による慢性的な高血糖を区別するためです。
つまり自己測定による数値で、自分で糖尿病と診断することはしないでください。必ず医療機関を受診し検査を受けるようにしましょう。
検査による分類
糖尿病のリスクを評価するためには、空腹時血糖値と75gの経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値を組み合わせて検査します。これにより、糖尿病の状態を「正常型」「境界型」「糖尿病型」のいずれかに分類ができます。
正常型だから安心というわけではありません。定期的な検査を行い、状態をチェックしましょう。
糖尿病型
空腹時血糖値が126 mg/dL以上、または75gブドウ糖負荷試験の2時間値が200 mg/dL以上の場合、随時血糖値が200 mg/dL以上の場合で糖尿病型とされます。
正常
空腹時血糖値が110 mg/dL未満、OGTT 2時間値が140 mg/dL未満の場合、正常になります。ただし、空腹時血糖値が100~109mg/dLの場合、これは正常範囲内ですが、正常よりもやや高い数値です。この状態を「正常高値」と呼びます。
境界型
正常型や糖尿病型に当てはまらない場合が境界型です。境界型の方は糖尿病になるリスクが高く、動脈硬化などの合併症のリスクも高まります。そのため、食事や運動の改善、定期的な検査が重要です。
再検査
血糖値のみ糖尿病型で糖尿病の場合、HbA1cのみ糖尿病型の場合は1ヵ月以内に再検査を行いましょう。ここで、再度判定を行います。
血糖値のみ糖尿病型の場合
血糖値のみ基準を超えた場合は、典型的な症状があるか確認します。口の渇き、過度の水分摂取、多尿、体重の減少が一般的な症状です。症状も網膜症も確認できない場合に再検査を行います。
再検査でいずれかの基準値を1つでも超えた場合、糖尿病と診断されます。再検査の時に、糖尿病型に当てはまらなかった場合は糖尿病疑いとし3~6ヵ月以内に血糖値、HbA1cの再検査が必要です。
HbA1cのみ糖尿病型の場合
HbA1cのみ糖尿病型の場合、1ヵ月以内に再検査を行います。再検査の結果が血糖値のみ、または血糖値とHbA1cが糖尿病型だった場合に糖尿病と診断されます。再検査で再度HbA1cのみが糖尿型だった場合、またはどちらも糖尿病型でなかった場合は糖尿病疑いの状態です。
この場合、3~6ヵ月以内に血糖値、HbA1cの再検査を行い再度診断を行います。ヘモグロビンA1cが高い理由は糖尿病だけではなく、甲状腺機能亢進症やヘモグロビン異常症など他の健康問題も影響することがあります。そのため、HbA1cだけの判断はできません。
自宅で出来る検査
病院に行かなくても、自宅でできる検査もあります。ただし、これらのセルフ検査は、病気の診断には使えません。もし検査結果に不安がある場合や、身体に異変を感じたら、医師に相談することが大切です。
いろいろな検査キットが市販されていますが、あくまで参考程度にしておきましょう。
尿検査キット
尿の成分を調べるための簡単な方法です。試験紙に尿をかけると、色が変わります。この色の変化を見て、糖やタンパク質、血液などが出ていないかをチェックできます。ただし、尿に糖が出ていないからと言って、糖尿病を否定するわけではありません。
血糖測定器
小さな針で指先を軽く刺して、出てきた血液の少量で血糖値を測定します。最近の機器は痛みが少なく、液晶画面で結果が読みやすいものが多いです。自分に合った使いやすいタイプを選びましょう。
まとめ
2型糖尿病は、通常、自覚症状がないまま進行することが多いため、定期的な健康診断や他の機会によって偶然発見されることがあります。糖尿病の診断は、主に血液検査によって行われ、空腹時血糖値やHbA1cなどの指標を用いて評価します。
糖尿病の検査は、糖尿病の早期発見や合併症の予防に重要です。また、市販の検査薬を使用して自宅で尿検査を行うことも可能ですが、これはあくまでスクリーニング検査になります。自己測定による数値を自分で糖尿病と診断することはせず、正確な診断には、必ず医療機関を受診し検査を受けてください。
定期的な健康診断や検査を受けることで、自分の身体を守りましょう。